秘境の湖へ

数年前に道が崩壊したとかなんとかで行けなくなっている湖がある。

行けなくなっていると言っても、自分の目で確かめたわけではない。

だから一回行ってみようと考え、色々と装備を準備して湖に向かった。

現地に着くと確かに、道が通行止めとなっていた。

「たどり着けばバラダイス!」

と、楽天的阿保脳を保有する私は考える。

この日はかなりの猛暑であった。

重い荷物を背負いながら、道なき道を湖を目指して歩いた。

過酷だった。

遭難するかも?という考えが頭をよぎった。

もうひとがんばりで湖というところで、休憩のために重い荷物を下ろした。体中汗びっしょりでのどが渇いている。

水分補給をしようと、お茶を入れたベストを見ると、ファスナーがひらいていてペットボトルがなくなっている。

チーン。

笹やぶのような道を歩いてきたので、ペットボトルを探し出すのは難しいだろう。

なにより、そこまで戻る気力と体力がなかった。

そこから、15分ほど歩いて湖にたどり着いた。そしてフローターを膨らませて湖に浮かんだ。死ぬ前にパラダイスを経験しよう。

パラダイス?

パラダイスのはずなのに?

釣れない。

全然釣れない。

死ぬ思いをしてきたのに釣れないよ~。なんだこれ~。地獄か~。

前はあんなに簡単に釣れたのに、一向にあたりがないので、フローターを下りて湖に流れ込んでいる川へ行った。以前、この川でもいい型のニジマスを釣ったことがある。

川の水は冷たく、澄んでいた。

飲んじゃう?

エキノコックスこわいなあ。

でも、透き通っているし、美味しそうだよ。

エキノコックスって、どのくらいの確立でいるのかな?

などいう葛藤があったが、エキノコックスの可能性よりも、脱水症状で車まで戻れなくなる方が命取りだと判断し、川の水を飲んでのどを潤した。

うまかった。

生き返った。

小河川はルアーで攻めようと、持ってきたパックロッドを用意し、川を渡ろうとしたら足を滑らせて膝をしこたま打った。痛いなあと立ち上がってロッドを見ると、トップガイドの下がぽっきりと折れてしまった・・・。なんだ今日は。呪いか?

それでも、トップガイドなしで釣りを続けると、小さいニジマスやオショロコマが釣れて来た。

しかし、このまま小さい魚と遊んでいて時間を使ってはいけない。

この日は夕方から用事があったため、タイムリミットは近いのだ。

もう一度湖に戻って、ラストチャンスにかけることにした。

フローターで浮かびつつ、いつも釣れていたかけあがりを後にして、湖全体を探った。

そろそろ、上がらねばならない時刻が近づいた時、ついに待望のヒット!

でかい!

掛かってすぐに、そのニジマスは猛烈に走った。人差し指に痛みが走る。出ていくフライラインの摩擦で人差し指を切ってしまった。

その後は、連続ジャンプ!なんと8回!

なかなか弱らない魚だったが、焦りはなかった。

ルアーに比べてフライはバレづらいし、まわりには障害物もないので、ゆっくりと弱らせればいい。

この一尾のための苦労だったのだと、ゆっくりとファイトを楽しむ。

強く持久力のある魚だった。

あれだけジャンプをすればすぐに疲れて寄ってきそうなものだが、なかなか上がってこなかった。

それでも、何分かすると、やっと弱って浮いてきた。

サイズは50cmほどだろうか。

引きのわりには小さいと感じた。それほどのファイトだったのだ。

ネットを出して掬おう構えた時、魚は少しだけ首を振り、その拍子に針が口から外れた。

魚はまだ、フックが外れたことに気づいておらず、水面直下に浮いている。

急いでネットを伸ばし救おうとしたが、ネットの先が魚に触れた瞬間、我に返った魚は水底へ去っていった。

なんだったんだ。今日の釣りは。

というお話でした。