5月にいいサイズの魚をばらし、翌月の再戦を誓ったのだが、気が付くとあれから4か月も経ってしまっていた。
この3連休は仕事が入っていなかったので、金曜日の勤務後に職場から直接道北へ向かった。金曜日の朝に急いで車の中に釣り道具詰め込み寝床を準備したのだが、出発してすぐに熊スプレーを忘れてしまったことに気が付いた。しかし、まあ買ってから使ったこともないし、取りに戻るほどでもないか。
日にちをまたいだ頃、眠くなったので道の駅で仮眠をとった。釣り場まで1時間くらいの場所だった。随分疲れており、350mのビールを飲むとあっという間に眠りについていた。翌朝暗いうちに道の駅を出発し、まずは比較的下流のポイントを攻めた。
ポイントまでは容易に近づける川だったが、人はいなかった。2時間ほど釣ったが諦めていつもの険しい釣り場へ移動した。
藪を漕いで川に出たのが8:30ごろだった。そこはGPSに“FUKAI”と打ってあるポイントで、渇水時でも背の立たない深さがあるポイントだ。
あまり音を立てすぎないようにポイントの下流に立ち、30gのスプーンを投げ入れ、竿をチョンチョンと煽るようにゆっくりと巻いてくると、魚がヒットした。
ヒットの瞬間からイトウではないだろうと思っていた通り、暴れる魚は大きなカラフトマスだった。
この日も川は渇水で透明度が高く、あまりいいコンディションとは言えなかった。おまけに川にはカラフトマスがたくさん入っていた。以前、カラフトマスが多い時にはイトウは釣れなかったことを思い出す。

52cmのイトウ。1尾目はほっとする。
それでも1時間後に沈木のわきの深みを通したスプーンに掛かった魚は、イトウ特有の引きをした。あげてみると小型のイトウであった。坊主を免れほっとした。
その後はウグイやカラフトマスは時折かかるが、肝心のイトウはどこからも出なかった。
何時もの事だが泥の壁はひどく滑りやすく、少し傾いているだけで、少しのグリップも効かずに川へ滑り落ちてしまう。おまけに滑り止めのために新しく用意した軽アイゼンはすぐにずれてしまい使い物にならなかった。すぐにずれるアイゼンを何度も着けなおしながら、こんなことなら前回の釣行で使用した滑り止めの方がずっと使えるのにと後悔した。
あと数百メートルで脱渓点というところで膝をひどく捻挫してしまった。
その時私はアイゼンが外れていたがなおすのが面倒で外れたまま歩いていた。草に隠れた泥の斜面に左足を置いてしまい、そのまま川の中へ滑ってしまった。運悪くすべった先に倒木があり、岸と倒木の間に左足が挟まってしまった。膝が丁度テコの支点のような位置で固定され、あらぬ方向に力が加わってしまった。

ワイヤーとベルトでしめる軽アイゼンだったが、ウエーダーとの相性が悪いのか、すぐにずれてしまい使えなかった。
ヒザの何かが壊れる音がはっきりとした。感覚的な音ではなく、実際に周りに人がいれば聞こえただろう音だ。バキッというような音ではなくもっと高い、ペキョキョキョという、形容しがたい音だ。
ああ、やばいかもしれないと体勢を整えて立ってみると、痛みはあるが、思ったほどではなかった。脱渓付近まで300m弱、そこからやぶ漕ぎをしなくてはならないが、川から道路までもそれほど遠くない。
滑る岸を歩くことはできないので、なるべく川の中を歩いた。川の中心は比較的泥が少なく滑りづらいし、浮力が加わるのでひざへの負担も多少軽い。
1時間ほどかけてなんとか道路に出て、それから車まで無事帰りついた。
明日に痛みが引いていれば、釣りたい河川はあった。色々な状況から、その河川に行けばきっと釣れると確信もしていた。ケガが大したことないということにかけてもう一泊するか・・・。
いや、そんなわけがないな。今一時的に痛みが少ないのは川の水で患部を冷やしたことやアドレナリンの分泌なんかが関係しているだけだろう。きっと明日には歩けないほどの痛みがあるに違いない。
悔しい思いを「またもや」道北に残したまま、釣り場を後にした。直接帰るには疲れすぎていたし、気持ちを晴らしたかったので、途中アキアジを狙っている釣り仲間のキャンプ地を訪ねた。
足は数時間の運転の後、曲げられないほどに痛み出し、キャンプ地に着いた時には普通に歩くことはできなかった。けがをしたのが脱渓点近くで良かったとつくづく思った。
友人たちに合流すると、釣った鮭をふるまってくれた。白子入りのアキアジのみそ汁もカマ焼きも美味かった。お互いのその日の釣りやたわいもないことを笑いながら話していると、随分と気が晴れた。持つべきものは釣友だ。